魔術の触媒とテキストを鞄いっぱいに詰め込み、学校と家を往復する毎日。

 彼女は王立の魔法学校に通う学生である。魔法王国エリクシアでも名門のひとつであるその学校では、成績優秀な者同士の争いは苛烈を極め、時にそれは醜悪な出し抜きあいとなる。そして、その中でも最優秀の学生達が集う場所が、攻撃魔法学科である。

攻撃魔法学科は、彼女にとって精神をすり減らすだけの場所だった。

「はあ……

 重苦しいものが胸の中に残った日には、カオ=ルーシャンは決まってそこへ行く。

 彼女の家からそう遠くない、スラムの、ある1軒の家。彼女は守りの術のかかっている扉に合い言葉となる短い呪文を唱える。そして、ドアノブを引いて中に入る。

 家の奥に行くと2階への階段があり、カオ=ルーシャンはそれを上って2階へ行くと2つある部屋のうちの手前の一つに入った。

 ノックもせずにドアを開けて中に入る。部屋の主はいなかった。この部屋の主はこんな、まだ夕方の時間にこの部屋に居ることはまずないが、彼女の目的はこの部屋の空気に触れることなので、特に問題はない。問題があるとすれば、彼女のモラルだけだ。

 カオ=ルーシャンが見回すと、壁にはぎっしりと今年の暦やら政党のビラやら、あとは流行の歌い手や役者のポスターが貼られていた。部屋があまりにも殺風景だな、と思ったカオ=ルーシャンが彼女なりに気を利かせてべたべたと貼った物だ。今思うと、あまり趣味の良い物ではないなと思い至り、彼女はひとり苦笑した。

 カオ=ルーシャンはベッドの上に転がって、膝を抱えて丸くなる。

 そうやって30分も黙っていると、やがて部屋の主が階段を駆け上ってやってきた。

「あ?なんや、また来てたんか」

 部屋の主であるエンドウギは、部屋に入るなり彼女にそう言うと、右手に持っていた練習用の槍を壁に立てかけ、おもむろに汗で汚れたシャツを脱ぎ始めた。いつも額に巻いている白いバンダナも、汗でぐっしょり濡れていた。

「ほんまにしょっちゅ〜来るなあ。もしかして自分、ワイのこと好きなんか?」

「なめんなアホンダラボケカス。砂漠甲虫におんどれのケツ咬ますぞ」

 彼は苦笑し、彼女の口の悪さをたしなめた。

「あかんなぁ。せっかの美人が台無しやん」

「ほっといてんか」

 彼女がそっぽを向くと、エンドウギはカオ=ルーシャンがいることも気にせず着替えを済ませ、階下から茶を運んできた。

 エンドウギがカオ=ルーシャンにそれを差し出すと、彼女はそれを黙って受け取り、立ちのぼる香草の香りを楽しんだ後、カップに口を付けた。

 カオ=ルーシャンとエンドウギはそうやってだらだらと時間を過ごす。

 彼女にとって、この部屋は最も落ち着ける場所だった。美味しいお茶もいいが、なにより魔法関係の書物が何一つ無いのがいい。

「せや、カオ。前から聞こう聞こう思ててんけど……自分、なんで攻撃魔法学科みぃな暴力的なとこ入ったん?」

 唐突に、エンドウギがカオ=ルーシャンに問いかけた。

「何がや。ちっとも暴力的なこと無いわ。エンドウギの槍の方が暴力的やん。あからさまに」

「さよか。まあええわ。それで、なんで入ったん?」

「あー……

 攻撃魔法というのは魔術体系の最先端であり、現在も古代の遺失魔法を始め、研究が盛んである。

攻撃魔法を扱う術者には優れた資質が求められる。知識、集中力、潜在的魔力他。特に強い攻撃魔法を御するのは、並の術者ではつとまらない。

 カオ=ルーシャンが通う学校は魔法国エリクシアでも有数の名門魔術学校で、そこの攻撃魔法学科に通う彼女は、いわば魔法王国の将来を担う逸材だ。

 この学科を卒業した者は、エリクシア宮廷魔法団を始め、国内にいくつかある魔法研究所……それ以外にも、国内外を問わず優秀な魔法使いの引き取り手はいくらでもある。

 カオ=ルーシャン自身は、いつか、どこか収まるべきところに収まるだろう程度に思っているだけで、進路について具体的な考えを持ったことはなかった。ただ惰性のまま勉強し、とりあえず自分の能力に見合ったところを歩いていたら、気がついた時には随分前の方を歩いていた、というだけの話なのだ。

(っちゅーかそんなん、かっこ悪うて、言えるかいな)

 そう考えたカオ=ルーシャンは、とりあえず何か場を繕えるような話題を考えてみたが、これといったものはなかった。その場その場で適当なことを言えるような器用な性質ではないのだ。

「せやな、カオやったら宮廷かてどこかて、喜んで迎えてくれるやろな」

  彼女の沈黙を違う風に受け取ったエンドウギは、彼女に助け船を出すようにそう言った。

「宮廷かて研究所かて、引く手数多やん」

「別に、どこでもええわけやないよ……

「ああ……カオが花の宮廷通いで会われへんようになってもたら、わい、ごっつさみしなるなあ。カオがしくしくと枕を涙で濡らす日々を送る思うと……

「自分、命いらんみたいやなぁ。ホンマ、命知らずなあんちゃんやで……」

 カオ=ルーシャンはまるで円動議を恫喝するように低い、腹に響く声で言う。次に、彼女は短い呪文を唱え、右手に炎を具現化させた。

「冗談やんかいさあ!ホンマ、ユーモアのわからんやっちゃ!出世せえへんで!?」

 エンドウギは顔中に大量の汗を流しながらも、冷静な声で彼女の凶行を押しとどめた。

カオ=ルーシャンは先ほどの呪文を逆唱し、右手の炎を消滅させた。どうせこれを彼にぶつけたところで、どうってことはないのを彼女は知っていたが。

「まあええわ。今日はもう帰り」

 カオ=ルーシャンはエンドウギに言われるままに立ち上がり、不機嫌そうな顔で部屋の戸をくぐる。

「カオ、ホンマがんばりや。わいには歩かれへん道や、できる限りやっとき」

 カオ=ルーシャンは後頭部でそれを聞きながら、部屋を出ていった。

 

 

 

 カオ=ルーシャンがエンドウギに出会ったのは、およそ10年前、2人が8歳の頃だった。

カオ=ルーシャンが街に迷い込んだ大きな蝙蝠の姿をした魔物に襲われたとき、エンドウギに助けられたのだ。

 エンドウギは長い棒でもって何度も何度も蝙蝠を打ち据え、ぴくりとも動かなくなるまで棒で殴り続けた。

 蝙蝠の返り血で真っ赤になった少年の姿を見たとき、カオ=ルーシャンは、野蛮だと思った。

 エンドウギは棒を引くと、カオ=ルーシャンに向かって屈託のない笑顔を作り、言った。

「強いやろ。わい、ごっつ強い戦士なって、世界中を旅するんや!」

 

 

 

 華やかなりし魔法王国エリクシア。世界最高水準の魔法技術は他国の追随を許さず、解読された幾つかの遺失魔法は、エリクシアの民に様々な恩恵を与え、国を豊かにした。

 そんな魔法王国の将来を担う者を育成するべく、エリクシアの各地には多くの魔法学校が存在する。

 カオ=ルーシャンが通うのはエリクシア王立第五魔術学校。王立の魔術学校は7つあり、その数字は創立した順を表している。その数字が学校の優劣を示しているわけではないが、近年はその数字を同一視するような傾向にあり、国家の中央、エリクシアの地上宮に最も近い第一魔術学校に優秀な学生が多く流れている。それ以前は、学生は住居に最も近い、いわゆる地元の学校を選んでいたらしい。

 王立第五魔術学校攻撃魔法学科ヤナセ研究室。部屋の中には魔術書の並んだ本棚が壁際に3つと、その中央に8人は掛けられるようなテーブルがひとつ。窓からは目映いばかりの陽の光が差し込んでいる。

 テーブルにはカオ=ルーシャンと研究室の同僚・ミンリィとスイハ。

「スイハは進路、決まったの?」

 ミンリィはスイハに問いかける。

「あ〜、前から言うてたけど、あたしは家でおとんの手伝いするねん。宝石磨きや」

「あら羨ましい。家業があると良いわよね。あんたは魔術の集中力だけなら構内でも上位だからねぇ。ぴったり」

「ミンリィ、それ皮肉に聞こえるで」

 ミンリィの隣にいるカオ=ルーシャンが素早く彼女につっ込む。しかし、スイハはさして気にも留めない。

「ええんよ。それだけに特化して能力伸ばしとったんやし」

「確かに。筆記なんてぼろぼろだったしね。どうやって進級したのかしら」

 ミンリィがにやにや笑うと、スイハは痛いところを突かれたとばかりに俯く。

「そういうミンリィは進路どうすんねん?」

「あたし?あたしは、お嫁さ〜ん」

 スイハとカオ=ルーシャンはじと目でミンリィを見る。

「まあ、相手がいたらね。それまでお父さんに養ってもらおうかしらね。箱入りのお嬢様でもやってるわ」

 ミンリィの家は父親が宮廷魔術師で、それなりに裕福な暮らしをしているらしい。そんな家だから、彼女の父親にしてみれば娘が王立の魔術学校にいないのはどうにも世間体が悪いらしい。そんな理由で彼女はこの王立第五魔術学校に籍を置いていた。彼女は地元にある第三魔術学校を志望していたが、選考に漏れたため、その時点で定員が割れていた第五魔術学校に願書を提出して滑り込んだのだ。

 現在アパートでひとり暮らしのミンリィは、卒業を機に家でお嬢様暮らしに戻ることだろう。彼女には、王立の魔術学校を卒業したという事実さえあれば良いのだ。

「はいはい。したら、カオ=ルーシャンはどないすんねん」

「ウチ?ウチは……

 スイハに急に話を振られて、カオ=ルーシャンは戸惑った。

「カオ=ルーシャンはこれっちゅー欠点もない優秀な器用貧乏やからな」

「スイハ、嫌味に聞こえるわよ」

 ミンリィのフォローに、カオ=ルーシャンは苦笑する。エンドウギの前でこそ口の悪い彼女だが、学校での彼女はそんな面を級友たちに見せない。こういうのは内弁慶なのか、それとも外弁慶なのか。

「どないしよかな、思てるねんけど……

「カオ=ルーシャンだったら宮廷魔術師も無理じゃないだろうけど。でも、あそこも人、余ってるみたいだしね」

「なんやったら外国でもええんちゃうのん?ジュデンとかやったらろくな魔術師いてへんさかい、すぐに王様付きの魔術師なれるで。特別仲の悪い国でもないしな」

世界にその名高い武の大国ジュデン。あまり魔法が盛んではない東の大陸のこの国では、慢性的に術者が不足しているらしい。

「うん。せやけど、海外やし、近ないし、それに……

 カオ=ルーシャンは人の悪い笑顔を浮かべると、こう言った。

「年がら年中お祭り騒ぎしてるような脳天気な連中とは、上手くやっていかれへんのと違う?」

 それを聞くと、スイハは腹を抱えて笑い出した。

「ぎゃはははは!言えてるわ」

「ふふっ。違いないわね。がさつが国民性と言われてるくらいだものね」

 ミンリィも同意し、ころころと笑っている。

 魔法国エリクシアの住人は、総じて静寂を好むのが国民性である。休日の日は家で読書やアートに親しむ者が多い。それは、どちらかというと派手好きな学生の多い攻撃魔法学科に籍を置く彼女らも例外ではない。

 彼女らが笑っていると、無遠慮にあけられたドアから、3人の男子学生が入ってきた。

「よお、なんやおもろい話?」

 3人の男子学生は空いている席に各々腰掛ける。

(ああ、我が国にもがさつな人種がいたか)

 カオ=ルーシャンは彼らを見て、そういう感想を抱いた。

 カオ=ルーシャン達が属するこのヤナセ研究室は、代々女子学生ばかりで構成されるゼミで、そのせいか他の研究室の女子の溜まり場になったりするのでまるで女の園のようになっている。その女子学生達と仲良くなる目的で男子生徒がヤナセ研究室を訪れる、というのがこれまた代々受け継がれている伝統らしい。さすがに、ヤナセ教授がいるときまで押し掛けてくる男子学生はいないが。

 そして、スイハとミンリィはこの構図にはまんざらでもないらしい。ミンリィなんかは『本当に婿探しをしているのでは?』と思うほど熱心な時がある。

「あら、よく来たわね。ところであなた達って、ジュデン出身なのかしら?」

 ミンリィが彼女たちにしか分からない皮肉を言うと、スイハがまた笑い転げた。男子学生達は何だか分からない、というような間抜けな顔をしていた。

「ふふ……せやったらうち、先に帰らしてもらうわ」

 カオ=ルーシャンはそれだけ言うと、さっさとヤナセ研究室を出た。

 

 カオ=ルーシャンは帰りしな、進路について考えてみた。宮廷魔術師の道も考えたが、先程話したとおり、宮廷に魔術師は多すぎるほどにいる。その席の大半には、先の長くない老魔術師達が執念深く居座っている。魔法というものは長い年月を以て修めていくものだから、宮廷の構成が老人中心に偏るのは分からない話でもないのだが。それに、数少ない新規の席には魔法に秀でたエルフや闇の民が座ることも多い。

 今の宮廷には宮廷魔術師の若返りを図るような採用システムはない。近い将来、円滑に進まない世代交代のつけが回ってくるだろうと、カオ=ルーシャンはヤナセ教授から話を聞いていた。

 カオ=ルーシャンはそれだけを考えて、宮廷魔術士を己の選択からあっさりと切り捨てた。元々、宮廷に思い入れなど無いのだから。

 カオ=ルーシャンが歩いていると、前方に荒れた歩道の整備をしている一団を見つけた。

筋骨隆々の彼らは、割れた石畳を剥がし、土を均し、魔法で切り出された新しい石をはめ込んでいる。その石の一つ一つは、華奢なカオ=ルーシャンには持ち上げることのかなわないような大きさのものだった。

 横を通り過ぎようとすると、カオ=ルーシャンは一団の中に見知った顔を見た。

 エンドウギが、その馬鹿みたいに大きい石を運んでいた。

 

 魔法国エリクシアは、魔術の才能で人生が決まる。素質のある者は魔法学校で学び、将来はこの国の基礎として優遇されて働く。

 逆に、魔法の素質のない者の多くは、肉体労働者として働く。エリクシアではそれなりに重宝されるが、華やかな待遇などはかけらもなく、あからさまな目で蔑みの視線を送られることも少なくない。

 また、この国には変わった制度がある。極端に魔力に乏しい国民には、一定金額の補償を与えるというものだ。それは病人に対する補償と同じ手続きを踏んで与えられる。

 ようするにこの国は、『魔力が無い』ということを疾病と認定したのだ。

 彼、エンドウギも国から補償を与えられている者の一人だ。

…………」  

 カオ=ルーシャン、はエンドウギがこうやって働いているところを初めて見た。エンドウギがいつも部屋で寝転がっているような怠け者ということではない。彼が労働をするような場所に、カオ=ルーシャンは縁が無かったからだ。

 カオ=ルーシャンはしばらくエンドウギの姿を見ていたが、彼が彼女に気づいた様子はなかった。

 やがて、カオ=ルーシャンは工事現場に背を向け、家路についた。

 

 

 

 カオ=ルーシャンが家に帰ると、両親がテーブルについてなにやら話をしていた。

「カオ=ルーシャン」

 父に厳しい声で名前を呼ばれて、彼女は身をすくませた。

「座りなさい」

 カオ=ルーシャンは言われるままに父の正面にある自分の椅子に座った。魔法薬製造の企業を牛耳る父の声には、有無を言わさない迫力があった。

「カオ、お前はまだあの肉体労働者と会っているのか」

 カオ=ルーシャンはびくりとし、益々身を強ばらせる。

(エンドウギのこと、知ってたんか……!)

 内緒にしていたつもりの秘密の友人の事を、彼女の父は知っていたらしい。しかもその口振りから、ずいぶん以前からそのことを知っていたことが伺える。

「あまり世間体の良い話ではないな。今までは目を瞑ってきたが、これからは謹んでもらおう。カオには、うちの会社の看板を背負ってもらうことになるのだから」

「な……なんやのそれ!?うち、おとんの会社に入る気なんてない……

「いるだけでいいさ。将来は婿を取り、会社を盛り立ててもらうことになる。……正直を言えば薬学科を専攻してもらいたかったのだが、お前には不足な学科だったろうからな」

 カオ=ルーシャンは唇を真っ白にして、父の顔を見ていた。進みたい道が明確に見えていたわけではけれど、こんな強引な話は、彼女の望むところではなかった。

 カオ=ルーシャンは椅子を蹴り、家から飛び出した。

「カオ!カオ=ルーシャン!」

 背中に聞こえてくる父の声を無視し、彼女は走っていった。

 

 

 

 気がつけば、彼女はエンドウギの家の前に来ていた。あたりは真っ暗で、興奮していたこともあり、どこをどう走ってきたのかも覚えていなかった。

 2階のエンドウギの部屋の窓を眺める。しばらくすると何かの意志が通じたのか、その窓ががらりと開かれる。

「エンドウギ……

 彼女がぼそりと呟くと、それを聞き取ったのか聞き取らなかったのか、エンドウギは彼女に気づいた。

「ん?カオ?なんやこんな遅くに。あがって行き」

 エンドウギに呼ばれたカオ=ルーシャンは、少し戸惑ったが、やがて階段を上り、彼の部屋に入った。

 真っ暗な部屋には蝋燭一本の灯火のみ。カオ=ルーシャンの家では魔法の石が部屋を照らしてくれるが、高価な物であるためにそう易々と買い求められる物ではない。

 カオ=ルーシャンは魔法で部屋を照らし、椅子の位置を確認して座った。エンドウギの方は、ベッドに腰掛けている。

「こんな夜中にどないしたん?ほんまにワイのこと好きやったんか?」

 いつもなら園軽口に辛辣な返事を返すカオ=ルーシャンだったが、今は返事をする気にもなれなかった。

「なんや。言葉責めがないやなんて。寂しいわぁ」

「あのな」

 カオ=ルーシャンが唐突に口を開いたので、エンドウギはまじめに聞く姿勢を作った。

 彼女は家での出来事を彼に話した。エンドウギの部屋に行くなと言われたこと、父の会社に勝手に入れられそうなこと……

「ああ、なるほどやな。確かに、ワイみたいなんにつきまとったかて、ろくなことないしな」

「ウチのおとん、肉体労働者に差別意識があるんや……」

「そんなん、この国では珍しいことやない。カオ、むしろ自分のが変わってる思うで。まともな学校に通っとるやつで、ワイみたいなんに肩入れするようなんなんぞな……

 カオ=ルーシャンは涙を流し、エンドウギの顔を正面から見据える。

「エンドウギが自分のこと卑下するんはおかしいで!エンドウギは魔力は弱いけど、魔術師と肉体労働者でやってる仕事の尊さ、ゆーかなんていうんやろ、とにかく、やっとることに大して違いなんて無いやんか。むしろ、馬鹿でかい大石を自分の体で持ち上げるエンドウギの方が、なんぼかかっこええ!って、ウチは思う」

 エンドウギがそれに対してにやにやしながら言う。

「なーんや。やっぱしわいにホの字やんか」

「アホ抜かせボケ」

 カオ=ルーシャンの反応にエンドウギが「くくくっ」、と忍び笑いを漏らす。カオ=ルーシャンはそれを面白くなさそうに見ている。

「さて、カオ」

 エンドウギはそういうと、立ち上がって壁に立てかけてあった槍を手にし、またベッドに腰を降ろした。

「ワイが昔、自分に言うたことがあるよな。覚えとるか?」

……戦士になって、世界中を冒険する」

「せや。ワイは今日まで、師匠のない中で槍の修行をし、頑丈な体でもって旅に出るための金を稼いできた。それもみんな今日までや。ワイは今晩、こっそりこの国を出るつもりや」

「え!?」

 そんなことは初耳だった。今まで、そんな素振りも見せなかったのだ。カオ=ルーシャンは彼の言葉にひどく狼狽した。

「カオ、親の会社に入る気ないんやろ。ワイと一緒に、冒険の旅に出えへん?」

 この男は突然何を言い出すのか、とカオ=ルーシャンは思った。

「急にそないなこと言われても、うち……

「せやな、無理もないな」

 エンドウギは入り口の側においてあったずた袋を抱えると、彼女に向かって、微苦笑して、こう言った。

「ほんまはごっつ、心細かってん」

 そんな弱い顔を見せられると、彼女はついて行かないわけにはいかなくなった。

 

 

 

 エンドウギの家を出ると、まっすぐ街の南門に向かった。旅支度を整えたエンドウギに対し、ほとんど着のみ着のまま出ていくカオ=ルーシャンであったが、時間は夜、物資の調達は望めそうにない。

「この街を出たら、真っ先に自分の服をこうたる」

 エンドウギはカオ=ルーシャンにそういってくれた。家にあるいくつかの価値のある魔法の品物を持ってきたので、余所の国へ行けば多少なりとも金は作れる。

 カオ=ルーシャンの胸は不安でいっぱいだった。こんななんでもない夜に、人生が変わるなどとは、全く思っていなかったのだ。

「心配あらへん。ワイがついとるさかい」

 言うと、エンドウギはカオ=ルーシャンの手を握りしめた。

 その時。

 誰かの呪文とともに、周囲が明るく照らされる。いつもは漆黒の闇に星の光さえ届かないスラムが、それでも昼の薄明るさくらいには明るくなった。

 それを合図に、黒のローブを着た男達が5,6人、スラムになだれ込んできた。エリクシアの治安維持のために設けられた、王立の魔法警察団だ。そのうちの一人、黒のローブに金糸の刺繍がある、口髭を生やした男が、前に進み出ておずおずと言う。

「背徳者エンドウギ。貴様にカオ=ルーシャン嬢誘拐の容疑がかけられている。連行する」

 黒い男達が、口々に呪文を編み始める。捕縛の呪文・魔法の網だ。

 黄色に輝く網は次々とエンドウギに襲いかかる。

 しかしその魔法は、エンドウギにふれるや、すべてが立ち消えてしまった。

「網の目が、粗すぎるんとちゃうか?」

 信じられない光景に、黒い男達が目を見張る。

 動揺を隠せない黒い男たちに、エンドウギは額に巻いた白いバンダナを取ってその額を外気に晒す。そこには、ある種族しか持ちえない、第3の目が存在していた。

 それを見た男たちの一人が叫ぶ。

「……ミーム!」

 魔力の刃が通らない、神に祝福された、あるいは悪魔に呪われた種族・ミーム。魔術師が治安維持を行っているエリクシアにおいては、この呪われたミームは何よりも恐れられているため、国家登録の一部の研究被験者を除いては、厳しく入国を制限されている。

 エンドウギは極端に魔力の弱い『肉体労働者』として補償を受けているが、ミームという種は決して魔力の劣る種族ではない。エンドウギの場合、先天的な異常で、対外的な魔力の他に、己に内在する魔力をも封じてしまうという障害を持っていた。最も、例え優秀な魔力を持っていたところで、不法滞在のミームにまっとうな魔法教育が受ける権利は与えられないのだが。

 及び腰の黒い男達に、エンドウギは槍を構えて向かって行った。カオ=ルーシャンも彼の傍を寄り添うように走った。

「血を見るのが嫌やったら、さっさとどきや!」

 それだけで、黒い男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 誰かが、

「重大な違反者だ!魔法戦士の屯所に打電しろ!」

 といったのが、カオ=ルーシャンの耳に聞こえた。

 

 

 

 その後も数人の魔術師の追撃を受けたが、魔法が通じないと判るや否や、同じようにさっさと逃げていった。

 エンドウギとカオ=ルーシャンは追撃を逃れ、手を取り合って街の南門近くまでたどり着いた。

「カオ、カオ。もうわいら、この国には戻って来られへんかもな。……もっとも、戻ってくる気なんぞ端っからないけどな」

…………

「悲しそうな顔すなや」

 エンドウギはカオ=ルーシャンの髪をくしゃくしゃに撫でる。

「ワイが、守るさかいに」

 エンドウギは一歩踏み出した。

 南門の側には、十余名の魔法戦士がエンドウギを待ちかまえていた。

 

「うおおおお!」

 エンドウギは裂迫の気合いとともに、魔法戦士達に向かっていった。エンドウギはこの戦闘では自分に分があると考えていた。エンドウギには魔法は通じないし、魔法戦士といったところで、所詮魔術士に毛が生えた程度の、生半な戦士と踏んでいたからだ。

 魔法戦士の一人が、攻撃呪文を詠唱する。

「そんなん無駄や!」

 魔法戦士は、自分の右手に具現化させた炎を、エンドウギにではなく、彼の足下の舗装路の石畳に叩きつけた。

「!?」

 石畳が爆発し、砕けた大小の石の破片がエンドウギを襲う。勢いよく跳んだ石はエンドウギの体のあちこちに当たり、当たり所が悪かった物は、彼の肋骨を砕いた。

 魔法はエンドウギには作用しないが、魔法の作用によって砕けた石は、エンドウギに物理的な確かなダメージを与えていた。

 その場にうずくまったエンドウギに、魔法戦士達が殺到する。

そして一人の魔法戦士が彼の腕をとろうとした、その時。

「げふうっ……!」

 エンドウギの槍の柄が、腕をとろうとした魔法戦士の腹を突いた。薄手の鎧の、体を覆っていない箇所を突かれた魔法戦士は、後方に倒れ伏して口から泡を吐く。

「おんどれらぁ!ワイらが汗水垂らして敷いた石畳をぉ、間抜けな火遊びなんぞで軽々しう壊すっちゅうんはどういう了見じゃ!んのアホンダラぁ!!」

 エンドウギは槍を振り回し、同じように2人昏倒させた。

 しかし、エンドウギの応戦もここまでだった。隙をつかれて籠手を打たれ、槍を取り降ろしたエンドウギは為すすべもなく殴られた。

 カオ=ルーシャンはそんなエンドウギを見ながら、声ひとつあげることもできなかった。

 いつの間にか、カオ=ルーシャンも3人の魔法戦士に囲まれていた。

「誘拐されたカオ=ルーシャン嬢を確保しました!」

(誘拐やて?)彼らはカオ=ルーシャンが自らの意思で旅に出ようとしたことなど知らない。ミームの肉体労働者が魔術学校の学生をさらったとしか見られていないだろう。

 事情を話せば良かったが、話を聞いてくれそうもなかった。

 カオ=ルーシャンは小さく呪文を唱え、風の渦を巻き起こして魔法戦士達を吹き飛ばした。

 魔法戦士達は予想外の攻撃に抵抗もできず、3人とも跳ね飛ばされる。

「エンドウギ!」

 カオ=ルーシャンは倒れているエンドウギに駆け寄るが、魔法戦士の一人に遮られる。

「エンドウギ!エンドウギ!」

 手を伸ばすが、エンドウギには届かない。

「お嬢さん!?手荒な真似はしたくない。おかしな事をすると、あんたも一緒に監獄行きになりますよ!」

 そんな声はカオ=ルーシャンの耳には聞こえていなかった。カオ=ルーシャンは呪文を編み始める。

「!この」

 危機を感じた魔法戦士は、とっさにカオ=ルーシャンを殴りつけた。地面に倒れ伏したカオ=ルーシャンは嗚咽を漏らし、歯で切った唇からは血が流れたいた。

 

 場が収束しかけた頃、突然どこからか声が聞こえてきた。音の高い、まだ少女の声のようだ。

「人の恋路を邪魔する奴は……

 なんだなんだ?魔法戦士達が浮き足立つ。

「馬に蹴られて死んじまえってね!」

 声とともに地面に大きな振動が走った。まるで大地震のような振動は、誰もが大地に立つことを許さなかった。

 石畳は大きな波紋状に  ひび割れていった。波紋の中心は、どうやら奥も見えない闇の方にあるらしい。

 その闇の中から、ふたりの人影が躍り出てきた。

 闇の中で魔力のきらめきを放つ剣を持った少年と、大男でもなければ扱うことの適わないような大きなハンマーを軽々と振り回す少女だった。

「っく!なんだ、新手か!?」

 地面に尻を突いた魔法戦士達は立ち上がり、新たな敵に向かっていった。5人向かっていった魔法戦士は、3人が前衛を走り、2人が後衛で魔法援護をするという形を取った。

 ハンマーの少女は大振りに振ったハンマーを地面に叩きつけ、振動を起こして魔法戦士達の脚を封じた。先程の小地震はどうやらこの少女の仕業であるらしかった。あのハンマーは、きっと魔法の品なのだろう。

 タイミングを合わせて高く跳躍した魔剣の戦士は、魔剣の腹で前衛の魔法戦士ふたりの頭を打ち据えた。着地した魔剣の少年は、突然の攻撃に臨機応変な判断ができなかった愚鈍な3人目の魔法戦士の腹につま先をめり込ませた。

 比較的冷静に戦況を見ていた後衛のふたりは、素早く炎の呪文を完成させた。炎は魔法戦士の指さす方向、魔剣の戦士に向けて勢いよく滑り出した。

 しかしその炎の塊は少女が振り回したハンマーに遮られて、あえなく散開した。

 それを見て、魔法戦士達は少女が持つハンマーも魔法の品だと確信した。が、それを確認した次の瞬間には魔法戦士達は魔剣の戦士に腹を打ち据えられ、石畳の割れた地面に転がっていた。

 

 

 

 エンドウギが目を覚ましたときに見た光景というのは、どうにも理解しがたいものだった。カオ=ルーシャンが横にいて、それを見守るように知らない少年と少女が、立っていて、その周囲には死んでいるのかいないのか、十人余りの魔法戦士達が地面に転がっているという光景だった。

「エンドウギ!気いついたん!?あのなあ、このふたりがエンドウギのこと、助けてくれはったんよ!」

 エンドウギは未だ鈍い頭をゆっくり動かし、側に立った少年と少女を見た。こんな小僧と小娘が、あの魔法戦士達を全員叩き伏せたという事実がにわかには信じがたかった。

「……ああ、さよか。どうやら世話になったみたいやな」

 信じがたい話ではあったが、状況から察するにカオ=ルーシャンの話に嘘はないのだなとエンドウギは判断し、少年と少女に頭を下げた。

 少年はエンドウギに手をさしのべる。

「立てるかい?」

 エンドウギは少年に腕を引っ張られて、痛む脇腹を持ち上げるように立ち上がった。

「おおきに」

 少年に礼を言うと、今度は少女がにじり寄ってきて、エンドウギに話しかける。

「それで、これはどんな状況?みたところ、お金持ちのお嬢さんと恋に落ちた街の青年。だけど父親は『お前のような男に娘はやれん!』とかいってふたりを引き離すんだけど、ふたりの恋の炎は熱を増すばかり。心を決めたふたりは愛の、逃避行……?

「おおよそそのとおりやな」

「ちょいまちや」

 エンドウギの返答に、カオ=ルーシャンが異議を唱える。

「いつからウチとアンタの間に愛が芽生えたん?」

「え?ちゃうんか?」

 カオ=ルーシャンはエンドウギの脇腹を拳で小突く。骨が折れているエンドウギは痛みでうずくまる。

「カオ、自分結構洒落ならんことするやっちゃな……

 カオ=ルーシャンは涙目のエンドウギを余所にそっぽをむく。

「まあ、なんちゅーかな、愛の逃避行とは関係ないねん」

「なーんだ。だったらわざわざ助けること無かったな」

 小柄な少女が残念そうに言う。結構むごいことを言う少女だなとカオ=ルーシャンは思ったが、エンドウギはそれを単なる冗談と認識した。それだけの余裕が、エンドウギの方にはまだあった。

 エンドウギは、疑問に思っていたことを少年達に聞いた。

「なんでワイらみたいなんを助けたんや?」

 少女がその質問に答える。

「散歩してたら、なんか捕り物みたいなのが走っていたでしょ?野次馬しに行ったらあなた達がいて、んで、あそこに寝てるアホ男が女の子を殴ったのが気にくわなかったのね。それまで、どっちに加勢しようかと思ってたんだけど……

 状況によっては、自分たちもこのふたりにやられていたのかもしれない。そう思うと、エンドウギはぞっとした。何せ、魔法戦士全員を倒したふたり組だ。

「まあ、こっちのでかいお兄ちゃんは可愛い女の子がいれば無条件に助ける男なんだけどね」

 少女はジト目で少年の方を見つめる。

「違っげーっつの」

 少年は少女を一瞥すると、エンドウギに向き直る。

「詳しい事情は聞かねーけど、あんたたちは、こっからもう逃げるんだろ?早くしねーと、また追っ手がかかるぜ?」

「……ほんまおおきに。自分らはどないするん?」

 少年は少女と目を見合わせると、エンドウギの問いに返答した。

「俺達は、街に連れが一人いるしな。旅の身だから身元が割れる心配はねーよ」

「さよか」

 エンドウギは少年に握手を求めた。少年が力強く握ると、エンドウギも強く握り返した。

「この恩は、一生忘れへんで」

 エンドウギはカオ=ルーシャンをそばに招くと、一緒に門を潜ろうとした。

 しかし、その彼らを後ろから呼び止める者があった。

「カオ=ルーシャン!!」

  カオ=ルーシャンが声に振り向くと、そこに立っていたのは、彼女の父親だった。

 とっさに剣を抜きかけた少年と少女だったが、カオ=ルーシャンがそれを制した。

「カオ、そんな男について行って、将来を棒に振るのか!?」

 父は必死の形相で娘に声を掛けた。

「エリクシアにいれば、誰もお前を傷つける者などいない!一生安寧に暮らせる!何が不満なんだ!」

 あんたの、自分勝手や。カオ=ルーシャンはそう言いそうになったが、咽の奥で押しとどめた。少年と少女はこの状況に静観を決め込んでいる。というより、何かを言いたそうな少女を、少年が押しとどめていると言った方が正しいが。

「カオ……

 エンドウギは彼女の腕を引く。これからパートナーになるはずの女の腕を。

 カオ=ルーシャンは父に背を向け、重い足取りで門を潜ろうとする。

 父の声が聞こえなくなったカオ=ルーシャンは、気になって耳をそばだてた。

しかし、それがいけなかった。

 彼女の耳に入ってきたのは、小さく漏れ聞こえる父の嗚咽であった。

「エンドウギ」

「なんや」

「あんたのこと、ほんとはあんまり好きやなかったけど、それでもおとんよりましやと思ってた」

「さよか」

 それだけいうと、カオ=ルーシャンは身を翻し、父のもとに走った。彼女の腕を捕まえようとしたエンドウギの腕は空を切った。エンドウギは追いかけようとしたが、先程まで状況を静観していた少年の赤い魔剣に遮られた。

「どかんかい!この日和見主義者がっ!!」

 叫びはしたものの、エンドウギにこの少年を退けられる自信はなかった。それを認識する程度には、彼は冷めていた。

「言ったでしょ。女の子がいれば無条件に助けるって」

 相方の少女が寄ってきて、エンドウギに声を掛ける。

……おもんない冗談やで」

 少女は「べー」、とエンドウギに向かって舌を出した。

 エンドウギは、抱き合う親子を、哀しげに、そして少し愛おしげに眺めてから、それに背を向けた。

「自分ら、一生恨むで」

「上等だよ。暗い夜道でばっさりいくかい?」

 男一匹一人旅〜、俺の旅路にゃ女はいらぬ〜

 エンドウギは歌いながら、一人で門を潜り、エリクシアを後にした。

 

 

 

 あの時悟った。私に足りないのは、覚悟とか、一貫性とか、とにかく、何かを貫くための、その力だ。

 

 カオ=ルーシャンは、あの時の事を思い出して、今でも気分を俯かせることがある。

 王立第五魔術学校を卒業したカオ=ルーシャンは、結局父親の言うとおりに魔法薬の会社で働いている。あの夜に出会った少年と少女にも、あれ以来会っていない。そもそも名前も知らない。父が話を回して彼ら(エンドウギも含めて)の件は不問になったらしいが。

 エンドウギがいた部屋には今でもたまに足を運ぶ。主を失った部屋はとても淋しいが、時折なにかの慰みに部屋の掃除をしたりする。エンドウギが帰ってきたときのため、なんて事は少しも考えていない。彼はエリクシアを好きじゃないと言っていたから。きっと戻ってこない。別にそれでいい。

 それでもカオ=ルーシャンは、学校を卒業して会えなくなった友人と同じくらいには、彼のいないことに寂しさを覚えていた。 

「はあ」

 不自由はないが、どこか持て余す日々。結局は自分が選んだということになるこの道は、少々退屈で。

(やめよ、っかな……)

 どうせ辞表を提出しても籍は残るのだろう。それを無視して会社に出社しなくなって、会社に不利益な人間だと判断されても、名簿から名前が消されることはないだろう。どうせ、覚悟のない私にはできないことなのだからそんな家庭の話には何の意味も無いが。

 また誰かにさらわれてみたいと思ったりはしない。もう少女の日々は過ぎたのだ。

 

 今日もまた、彼女は主のいない部屋で微睡む。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送