『 School flaw 』 著:クレイ・G

  第一話 強制参戦A 





俺は闇の中にいた。
 そんな闇の中で何か聞こえた。
「…きてくれ」
 声が聞こえる。なんなんだ。
「起きてくれ…」
 今度ははっきり聞こえた。起きろと言っている。
「早く起きてくれ…」
 頭に響くような声、毎日のように耳に入ってくる聞き慣れた声だ。そういえば俺は寝ていたはずだ。
「早く起きてくないか…精神介入も疲れるのだがね。」
 今度は体をゆすられたような気がする。しかし、俺はまだ寝たりない。よって眠り続けることに決定。
「まだ起きないか…」
 俺を起こそうとする声はけだるそうに、そしてあきれた風におれの頭の中に響く。
「起きてくれないか?頼む」
 断る。俺ははまだ寝たりない。
「私が頭を下げても起きないつもりかい…?」
 またため息が響き渡る。
「いい度胸だ…ならば龍崎君…君が起きるまでの間、君の×××を弄りながら××を××てさらに君の××××に××を××したあとに極太の××××…」
 なにやら恐ろしい言霊が聞こえた…
 このままでは自分の貞操が危うい。
 そう直感した俺は拳銃から吐き出される銃弾のように、勢いよく飛び起きた。
息が荒い。

滝のように汗をかいている。まるで悪夢を見た後のようだ。まぁ危なく本物の悪夢を見るところだったようだが…。
「やっと起きたか龍崎君。君が起きるまでの三十秒間、気が狂ったかのように痙攣していて見て
いるほうはなかなか愉快爽快だったよ、龍崎君?」
 前の方からそんな声が聞こえてきた。俺はふと自分の机の前に立っている人物に目を向けた。前方にはやる気のない目でこちらを眺めている割と小柄な女性の姿があった。
 その人物は、藍海学園高等部に通う俺、龍崎 砕(りゅうざき さい)のクラスの担任である入宮 真心(いりみや まごころ)だった。
 入宮先生は黒髪ショートカットでお洒落な青い眼鏡をかけていて青いワンピースの上に白衣というといういでたちだ。
 俺は一気に気がめいる。
またか…
「先生…いつものごとく魔法で俺に悪戯するのやめてもらえないですかね?というかなんでいつも俺だけいじるんですか?」
 魔法…それはこの世界に住むものに必ず一つは憑く力の総称だ。魔法には二種類の属性があり、強化と干渉の二種類に分かれる。
 強化とは自分の体の一部もしくは体全体を文字通り強化する魔法である。
 干渉とは自分以外の物体に効果をもたらす魔法だ。
 ちなみに真心の魔法は人の精神に自分の意思を干渉させる干渉魔法の部類に入る。
「はっきり言ってたち悪いですよ先生…」
 俺は真心を文句を言う。
 この入宮 真心という人は毎度毎度、魔法の使った悪戯を仕掛けてくる。全く持って性質が悪い人だ。しかも俺に限定で…。
 しかし俺以外の生徒からの評判はかなり良い。
 背は特別高いわけではないがスタイルは良く美人で授業も面白く分かりやすいし人当たりもいいというのでまわりのクラスメイトから人気は高かった。
 俺も俺に対する嫌がらせさえなければとっつきやすい良い教師だと思う。
 ちなみに受け持っている教科は化学だ。
「断る」
 うわっ、即答かよ…
「龍崎君、君はこのつまらない学校という職場での私の唯一の楽しみを奪う気かい?いけないなー龍崎君…」
 嫌な楽しみだ…
「つまらないって…じゃあ先生は何で教師なんかになったんですか?」
「さぁ?たぶん成行きじゃ……なんだい?龍崎君、その呆れたような顔は…」
 やばい…顔に出てたらしい。
「いや、なんでもないですよ。そういえば先生は俺になんか用があったんじゃないんですか?」
「ん?…あぁそうだったそうだった。龍崎君をからかうのが楽しくて本題を忘れていたよ。」
「………で、何の用ですか?先生がわざわざ出向いてくるということはよっぽどの急用か何かなん
でしょ?」
 この入宮 真心という人間は極度の面倒くさがりだ。生徒たちに何か用事があっても絶対自分から出向くことはせず、放送か何かで呼び出す。
「龍崎君、何だかその間が気になるな…まぁいい。いやなに、なんかうちのお姫様がなんでかは知らないけれど龍崎君、君のことを呼んでくれことしつこくてね?」
 お姫様?誰だ?
「あの…誰ですか?その、お姫様って…」
「あ〜…私が顧問をしている委員会の委員長だよ。見たことないかな?」
「…あぁ。はいはい。わかりました。遠巻きになら4〜5回か見たことがありますよ。」
 この先生は委員会の顧問もしている。確かにあの委員会の委員長はお姫様と呼ばれてもおかしくない容姿をしている。きれいな人だ。たしか外人さんだった。委員会は風紀委員会だったか…。
 ん?ちょっと待てよ?
 俺は風紀委員会に呼び出されるような事をしただろうか?
 特に目立ってわるいことをした覚えはない。なんせ俺は学園生活において常に目立たないように目立たないようにすごしている身だ。
 風紀委員会に呼ばれるようなことした覚えがない。
 …待てよ。
 もしかして煙草がばれたか?もしくは酒?
 やばい、もしこの両方がばれていた停学では済まされない。せめて別のことならよかったのだが残念ながらこれくらいしか思いつかない。
 まずい事態になってきた。
「気に入られるようなことしたのかな?龍崎君?あの子があそこまで人にこだわるのも珍しい…どうしたんだい?龍崎君?具合悪そうな顔して…?腹の具合でもよくないのかい?みるみる顔が蒼くなっていくよ?」
 まずい…また顔に出てたらしい。体中に嫌な汗をかいている。
「い、いえ、なんでもないです。じゃぁ早く行ったほうがいいですかね?」
「あぁそうだね。お姫様に癇癪を起こしてもらっては困るし。行くとしよう。」
 起こすのか…癇癪…
 俺がそんなことを考えていると真心は移動しようとする。俺はふと思い出したことを口に出す。
「あ、先生。ちょっと待ってください。」
 真心は振り返ってこっちを見る。
「ん?なんだい、龍崎君?忘れ物かな?」
 その通り、忘れ物だアレがなくては俺は非常に困ったことになる。
「はい、そこら辺に俺の眼鏡置いたはずなんすけど見当たらないんですよ。見ませんでした?」
俺は眼鏡がなければ何も見えない。
 入宮先生はそう言った俺の顔を不思議そうに眺めていた。
 しばらく間が空く。そしていきなり大爆笑しはじめた。
「なんですか?いきなり人の顔にて笑い出して、かなり失礼だと思いますよ?」
 俺はムッとしながら真心を非難する。
「っ…ちょっと待てそれはネタじゃないのかね?いや最初はワザとやっているのかと思ったが…まさか天然だったとは…っ…私もいろいろなものを見てきたがね?龍崎君?生きてきてそれを天然でやってのける人間は始めて見た…っ…君を天然記念物と呼んでもいいかな?」
 入宮先生はそんなことを言いながらまだくっくっくっとくぐもった笑いを続けている。
「なんなんですか。ほんとに腹立ちますね。」
 俺はもう半切れ状態だ。
「プクク…眼鏡だよ、眼鏡。君の頭の上だ、龍崎君。どうやればそんなこと素でできるんだ?」
「あ?」
 ふと注意を頭に向けてみる。たしかに頭の上に眼鏡が乗っている。それも大昔の漫画のような見事なのりっぷりだ。
真心は俺がそのことに気づいたと確認するとまた爆笑し始める。
クラス中の視線がこちらに注がれていた。
 俺は思う、この人の笑いのツボは絶対おかしい、と。

 俺は先生とともに風紀委員会室に向かっていた。自分が風紀委員に呼ばれた理由はまだ知らされていない。どうやら顧問である入宮先生も知らされていないらしい。嗚呼…本気で心配になってきた…。
 俺と入宮先生は豪華な洋館のようなつくりの廊下を進んでいく。
 俺が通っているこの藍海学園は全体的に洋館風なつくりになっている。
 しかも小等部から大学部までのエレベーター式の学園なのでむやみやたらに広い。
 豪華な洋館造りの学園と聞けばほとんどの人はこの藍海学園を金持ち趣向の学校かと思う人もいるかもしれないがこの学校は違う。
 はっきり言って100%実力重視の学校で金なんぞ無くとも入学できる。
 いくら金持ちな家柄でも実力がなければ問答無用で退学させられたりする。
 まあ、ようは金がなくとも実力さえあれば俺のように高等部からの編入し卒業するのも夢ではないということだ(俺の場合は入学テスト合格者内、けつから数えて三番目だったが…)。
 そんな藍海学園があるのが学園都市、蒼花市だ。人口20万人ほどの大きいとも小さいともいえない微妙な大きさの街だ。
 街には山と海が両方とも存在しており登山客や海水浴客も多く訪れている。
 学園都市と謳うだけの事はあり、この蒼海学園のほかに同規模の学園が八つもある学園都市として考えるとかなり大きな部類に入る街ではあるだろう。
 蒼花市の名前の由来はその昔、この町のどこかに蒼い花を咲かす桜の木があったという言い伝えがあるからだと聞いたことがある。何でもえらい僧侶かなにかが、かつて災いと呼ばれた何かを封じるためにうえたのだとか。
 その桜の木はもう花を咲かせなくなったものの今もまだどこかに聳え立っているそうだ。
 
 そしていいつたえには続きがある。
 そのもう咲くことのない蒼い桜がもう一度花を咲かせとき、災いが町を覆い尽くす、と。
 俺は八年前に去ったそんな不吉な言い伝えがある街にたった一つの約束を守るためだけに帰ってきた。そう、たった一つの幼いころの約束のためだけに。

 俺と入宮先生は一般教室連を抜け洋館風の広い廊下をただただ歩いていく。
 まだまだ付かない。この学校は広い。なんせ一般教室棟から委員会室棟まで歩いて大体5分は軽くかかる。
 その洋館風の廊下から右手に見える校庭からは放課後ということもあって野球部やサッカー部などの運動部の発する掛け声が響いている。
 二人っきりで静かな廊下を無言で歩いているのは気まずい。
 普段ならあまり気にならないなだがこれからの事を考えると落ちつかなかった。
 俺はそんな不安な気持ちを少しでも払拭するために緊張でカラカラに乾いた口を無理やり開く。
「先生」
「なんだい?龍崎君?」
「質問なんですがいいですか?」
「なんだい?」
 俺は前々から気になっていたことを聞く。
「なんで、風紀委員会の顧問なんかやっているんですか?面倒くさいことキライな先生なら真っ先に避けるところじゃないですか?しかもあの風紀委員ですよ?」
 先生はそれを聞くとかすかに顔をしかめた。
「龍崎君、君、良い根性してるね。顧問である私の前で”あの”呼ばわりとは…まあわからないでもないけどね?」
 その理由は簡単だ。
 この学園では風紀委員会が大きな力を有しており、その力を使用し風紀をみだすものにたいして容赦なく厳しい制裁を加えているからだ。
 前にクラスの知人の喫煙がばれて風紀委員に連行されたことがあったがその時知人は、「警察に補導されたほうがまだマシ」と語っていた。
 独裁政治ととまではいかないが学校運営にも大きな発言力をもっていること。
 しかし以前からこんなに厳しかったわけでもないという。
聞いた話によると現委員長、つまりさっき話しに出たお姫様が委員長になってからいきなり厳しくなったとのことだ。
 この学園自体荒れているわけではないのでそのような厳しい政策を取る必要ように思うのだが、確かに俺のように細々と悪いことしているが派手に悪事を働くような生徒はまずいないはずだ。
なのにこの厳しさは何かがおかしい。
「特にたいした理由ではないのだけれどね。」
 先生は顎に手を当て少し考えるような仕草をした。
「ま、これくらいなら話してもいいかもしれないね」
どうやら彼女の中で考えがまとまったらしい。
「…頼まれたんだ」
「…」
 それだけ?
 別になんでもないごく普通の理由であった。
 しかしそれだけで入宮先生が風紀委員会の顧問をするとは思えなかった。
 面倒くさがりの彼女が風紀委員会の顧問なするはずがない。
「本当にそれだけなんですか?」
「それだけだよ。まぁ、尋常な頼み方じゃなかったがね?」
「そんなに凄かったんですか?」
「そうだね」
 先生は顎に手をあて少し考え込むような仕草を見せる。
「毎日、毎休み時間ごとにわざわざ職員室に来て頭を下げられれば断るに断れないと思わないかい?」
 確かにそこまでされて断れる人間はなかなかいないだろう。しかしなんだか噂に聞いていた風紀委員会委員長とだいぶ雰囲気が違う気がする。
 プライドが高そうな人だと聞いていたのだが。
 その時、ふと俺の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「あのもう一つ聞きたいんですけど、先生は確か今年度からの顧問でしたよね?」
「そうだね。その通りだよ。」
「なら前の顧問はどうなったんですか?転勤したんですか?」
 先生はまた少し考え込んでこんでいる。おそらくこう思案しているのだろう。
 これは話してもいいものなのか、と。
 そして数秒後、先生は一回こくりとうなずいた。先生の結論が出たらしい。
「いや…転勤…はしていない」
 ? 変だ…
「おかしくないですか?それなら前回の先生が引き続き顧問をしているはずでしょう?」
 先生の表情が一瞬曇ったような気がした。
 しかしすぐにいつものやる気のなさそうな顔に戻る。
「まぁ…学校側にも色々ある、ということにしておいてくれ」
 どうやらあまり出してはいけない話題だったらしい。いつも通りの表情はしているがいつものように瞳に力がなく曇りをたたえていた。
わずかな沈黙が漂う。
「なあ龍崎君。」
 すこししてから先生のほうからその沈黙を破った。
「なんですか?」
 二人は静かな廊下を、コツコツと靴の音を響かせながら進んでいく。
「本当に心当たりは無いのかい?」
 入宮先生は疑問の表情で俺の顔をみている。
「何のことですか?」
 本当は何が聞きたいのかわかっている。
「風紀委員長に呼び出されたことだよ。」
 やはりそのことか…はっきりと言ってしまえばさっき言った酒、煙草以外で心当たりと呼べるものは無かった。
 残念ながらこちらは日ごろから目立たないように、目立たないように過ごしている一般学生の身だ。
 酒、煙草以外に悪さをした覚えは無い。
 ただでさえ目立つ身の上だ。 
 これ以上目立つことはしたくない。
「あのお姫様が委員会室に一般生徒を呼び出すことは本当に珍しいことなのだよ。龍崎君。あの部屋は基本的に風紀委員と顧問の私以外は入れないようにしてあるからね。前代未聞のことなんだよ。」 
 先生の顔は疑問の表情から不安の表情に変わっていた。
「そんなこと言われても本当に心当たりが無いんですよ。先生だって知っているはずでしょう?俺の性分。」
「”目立たず普通に”かい?かわった信条だよね。龍崎君。まぁわからないでもないがね。あれだけの過去を持っている人間だ。でもね?龍崎君?それは君の過去に対する”逃げ”というものだよ。わかっているのかな?龍崎君。」
 先生はそういいながら俺の顔をじっと見つめてくる。
「……」
 この人は本当に痛いところをついてくる。
 自分でもわかっている。
 自分が過去から”逃げて”いることぐらい。
 でも怖いんだ。
 自分の過去と向き合うことが。
 その時俺は自然と手の平が白くなるほど拳を強く握っていた。
 嫌な汗が握った拳の中にたまっていく。
 気づくと唇を強くかんでいる。
 俺にとっては過去と向き合うことは辛いこと、辛すぎること。
「わかっているならいいんだけどね?龍崎君。でもね龍崎君?勘違いしないで欲しいんだ。何も私は君に意地悪がしたくてちょっかいを出しているわけではないのだよ?いいかい?龍崎君。これでも私は君のことが気に入っているのだから。」
 その言葉を聞いて入宮先生の顔をみてみると、そこには先生の柔らかい笑顔ががあった。
 いつもの仏頂面からは想像できない笑顔。
 体中の力が抜けていった。
 俺はこの人にもこんな顔ができるのだなと思いドキリとしている。
「何赤くなっているんだい?龍崎君?もしかして私の美貌に魅せられてしまったのかい?なぁ、どうなんだい?龍崎君?嗚呼、私は罪つくりだね。龍崎君?」
 すでにいつもの人をからかうときの笑顔に戻りそんなことを言ってきた。
 俺は恥ずかしさで赤くなっている顔が更に赤くなった。
 顔が熱くなっているのがわかる。
「何を言ってるんですか。そんなくだらないこと言っているんだったら急いだ方がいいんじゃないですか?」
 もう半分やけくそ状態だ。
「ははは、そんなに怒るなよ。龍崎君?それに君のことを気に入っているというのは本当のことだよ?龍崎君?まぁ、そのことは置いておくとして、ふむ、急いだ方がいいというのは確かだね」
 入宮先生は腕時計を見ながらそう呟いた。
「それでは龍崎君。参ろうか。先ほどからお城で待ちぼうけを食らっているお姫様の御前へ」
 先生は白衣をはためかせながら静かな廊下を進んで行く。
 俺たちは洋館風の廊下に足音を響かせながらい姫君の元へ向った。







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